労働契約の終了

1 解雇

 解雇については、判例は、会社の解雇について、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるとしており、いわゆる解雇権濫用の法理を採用していると言われております。
 ですので、会社が社員を解雇するのは自由だと思っていらっしゃる経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、実際の裁判の場面では、どうして解雇するのかその理由、その理由がちゃんと立証できるのか、立証できるとして解雇という結果とバランスがとれていると言えるか、等が問題になります。
 会社としては不良社員がいる場合に、これだけ不良なんだから解雇してもいいだろう、と思う場合があるかもしれませんが、ちゃんと裁判所で証拠に基づいて不良であることが立証できるのか、そういう観点から慎重に検討して決めなければ、裁判で争われた時にかなり不利となります。
 また、解雇には懲戒解雇として、罰として解雇をする場合があります。ニュースなどで不祥事を起こした人を懲戒免職した等という風に報じられることがありますが、これが懲戒解雇です。懲戒解雇は、普通解雇よりも社員に不利益であることから、裁判所における権利濫用の判断にあたっては、普通解雇が認められる場合よりも厳しく、制裁として会社から排除することを正当化するだけの程度であるように、厳しく判断される傾向があります。

[解雇に関する判例1]
東京電力事件(東京地判平成10年9月22日)
 身体障害者等級1級に該当する嘱託社員が体調不良でほとんど出勤できない状態が続いたため、勤務に耐えられないことを理由として会社が社員を解雇したことについて、解雇権濫用にあたらないとした事案。
 出勤できない状況が続き、心身虚弱のため業務に耐えられない場合として、相当な解雇理由があるとされている。病気のために働かない状態が続く場合には解雇事由となることがあり得るということだが、逆に早期に回復が見込まれるような場合には解雇権濫用とされる場合もあり得ることには注意が必要。

[解雇に関する判例2]
セガエンタープライゼス事件(東京地決平成11年10月15日)
 人事成績が悪かった社員に退職勧告を行い、これに応じなかった者を能力不足として解雇したことについて、裁判所は解雇を無効とした事案。
 社員について、人事成績が下位であったことは認めているが、直ちに労働能力が著しく劣り向上の見込みがないとまではいうことができないとした。
 その後の教育・指導によっても労働能力の向上を図る余地がないといえる場合でないと解雇権の濫用とされる場合があるということである。

[解雇に関する判例3]
日本ストレージ・テクノロジー事件
 英語、パソコンの技術、物流業務の経験を評価して中途採用された社員を、能力が著しく低く、勤務態度不良として解雇したことについて、裁判所が解雇を有効とした事案。
 業務上のミスを繰り返して苦情が相次いだが上司の注意に従わなかったとか、報告義務も果たさず、譴責処分を受けたにもかかわらずミーティングの出席を拒否するなどした事情があったことから、その後も改善の見込みがないとして解雇を有効としたものと思われる。

[解雇に関する判例4]
大通事件(大阪地判平成10年7月17日)
 取引先の社員に対して暴言を吐いて脅迫したうえ器物をしたり、誹謗中傷を行ったりしたうえ、休職処分にも従わなかった社員を会社が解雇したことについて解雇を有効とした事案。
 職場秩序破壊行為が重大であると解雇は有効とされやすい傾向にあると思われる。

[解雇に関する判例5]
炭研精工事件(最判平成3年9月19日)
 逮捕勾留されたことによる無断欠勤、経歴詐称、禁固刑以上の刑に処されたこと、構内でのビラ配り等を理由として社員を懲戒解雇したことについて、懲戒解雇を有効とした事案。
 特に経歴詐称について、企業秩序の維持に関係する事項も必要かつ合理的な範囲で信義則上真実を告知する義務があるとして、最終学歴は企業秩序の維持にも関係する事項なので真実を申告する義務があると述べている。

2 整理解雇

 解雇の中でも、経営上の必要性から人員削減のために社員を解雇するものを、特に整理解雇という場合があります。会社が倒産しそうなので、社員を減らさなければ経営が成り立たない、だからいわゆるリストラをします、という場合をイメージしてください。
 整理解雇については、直接は社員の側の事情ではなく、会社の経営上の都合で行われるものです。
整理解雇は、①整理解雇を行う必要性、②解雇回避努力義務を尽くしたこと、③解雇される者の選定基準に妥当性が認められること(好き嫌いとかで選んじゃダメというイメージ)、④手続の妥当性(説明や話し合いを行うなど納得を得られるように頑張る必要があるというイメージ)、のいわゆる4要件が満たされる場合に有効になると考えられています。
整理解雇については、厳しく4要件を満たすかどうかを判断される傾向にあります。発想としては本当にやむを得なかったのか、といえるのかどうか、という場面ですから。ですので、例えば、①整理解雇を行う必要性については、会社が「会社の経営が苦しい」と思えばすぐに認められる訳ではなく、ちゃんと資料をもとに、客観的に会社の経営のために必要だ、といえるだけの事情が必要と考えた方がいいです。

[整理解雇に関する判例1]
東洋酸素事件(東京高判昭和54年10月29日)
 業者間競争の激化、市況の悪化、生産効率の低さ等により、累積赤字を生じていたアセチレン部門を閉鎖し、当該部門の社員全員を解雇したことについて、解雇を有効とした事案。
 アセチレン部門の業績不振は一時的なもので、収支の改善は期待できず、放置していれば会社経営に深刻な影響を及ぼすおそれがあり、他部門にも余剰人員を抱えていて配転先を確保することが困難であったこと、組合には以前から赤字の状況や存廃について説明を行い団体交渉は中断のまま組合の申し入れに終わったことなどを認定して有効としている。

[整理解雇に関する判例2]
ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件(東京地判平成15年8月27日)
 外資系企業で、親会社で巨額の損失を生じたことにより、グループ全体で人員削減必要として社員を解雇したことについて、解雇は無効であるとした事案。
 売上は横ばいか若干微増の状態にあり、剰余金も給与3年以上分に相当する額があるなど人員削減の必要があったかどうか疑問であるし、解雇回避努力を一切行っていないこと、人選基準は入社時に必要とされていなかった基準で行われていること等を考慮して解雇を無効とした。

3 退職勧奨

 会社が、いろんな事情を社員に説明して、社員の側から退職をしてもらうようにするというイメージが退職勧奨です。
退職勧奨を行うこと自体が直ちに違法というわけではありませんが、退職勧奨という範囲を超えて、社員の自由な意思決定を妨げるような退職勧奨は、違法な権利侵害とされることがあります。

[退職勧奨に関する判例]
下関商業高校事件(最判昭和55年7月10日)
 公立高等学校の教員に対して執拗な退職勧奨を行ったことについて、退職勧奨を違法とした事案。
 退職勧奨は、あくまで社員の自発的な意思で行われるために説得などを行う行為であるので、社員は何ら拘束なしに自由に意思決定できるものであるとして、退職勧奨に応じないことを表明しているにもかかわらず、退職するまで勧奨を続ける旨繰り返し述べて、短期間内に多数回、長時間にわたり執拗に退職を勧奨し、退職しない限り所属組合の宿直廃止、欠員補充の要望にも応じないとの態度を示すような事情では、退職勧奨は違法とした。

4 雇止

 臨時職員や嘱託という名前が使われることが多いですが、会社と社員の間で、労働期間を例えば1年間とするような約束をしていることがあります。この期間が経過した後、契約更新を行わないことを、一般に雇止といいます。
 ただ、今までの実績などから見ても、更新が自動的に行われている等、期間の定めのある労働契約が反復更新されたことにより、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている場合や、反復更新の実体、契約締結時の経緯等から、雇用継続への合理的期待が認められる場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、合理的ではない雇止が無効とされる場合があります。
 なお、労働契約法18条は、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた時は、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約に転換するとされています。

[雇止に関する判例]
東芝柳町工場事件(最判昭和49年7月22日)
 契約期間を2ヶ月とする臨時工に対し、繰り返し労働契約の更新を重ねた後の雇止について、雇止を無効とした事案。
 会社側に長期継続雇用を期待させるような言動があり、契約期間満了の都度契約締結の手続をとっていたわけではなく、これまでも臨時工が期間満了によって雇止された事例がみあたらない等の事情が認められる場合に、解雇権濫用の法理を類推適用し、雇止を無効とした。

5 退職願いの撤回

 会社と社員が合意によって労働契約を将来に向けて解約すること合意解約といいます。合意解約の申し込みとして退職願いを提出しても、会社の承諾の意思表示があるまでは撤回できるとするのが判例です。

[退職願いの撤回に関する判例]
白頭学院事件(大阪地判平成9年8月29日)
 社員が会社に退職願いを提出したが、任命権者(この事案では理事長)に退職願が到達する前に退職願を撤回する旨の意思表示をしたことについて、裁判所は退職願の撤回を認め、労働契約の合意解約は無効であるとした事案。
 社員が合意解約の申し込み(退職願いのことです)から約2時間後にこれを撤回したもので、会社に附則の損害を与えるなど真偽に反すると認められるような特段の事情が存在することはうかがわれないとして、退職願いの撤回は有効であるとした。

6 退職後の競業避止義務

 競業避止義務とは、会社と同様の事業を営む同業他社に勤めたり、会社の事業と競業する事業を行なってはいけないというような義務をイメージすればいいと思います。
 要は市場で競合するようなことをするな、という義務ですね。
 会社に勤めている時には、就業規則で競業避止義務が定められていることが多いですし、職務専念義務の関係でも競業避止義務があると考えられることが多いというのは分かると思います。
 問題は退職後にもそのような競業避止義務を社員が負わせることができるかどうかです。
 退職後の競業避止義務を就業規則や特約で定めていない場合、競業避止義務は当然には認められず、判例でも、元の会社の営業秘密を侵害したり信用を毀損する行為を行っていないなど、社会通念上の自由競争の範囲を逸脱していないと認められる場合には、競業行為を行っても不法行為とならないとするものがあります。
 逆に、退職前から他の社員や取引先に会社の誹謗中傷を行ったうえで、大量に社員を引き抜き、会社の取引先のリストを用いて競業を行ったりする場合には、自由競争の範囲を逸脱していると認められる場合もあります。要は、フェアな競争じゃないような競業行為を行った場合には、やはり競業避止義務の問題になります。
 就業規則や特約で、退職後の競業避止義務を定めている場合には、職業選択の自由との関係でその有効性が問題となりますが、制限の期間(無制限よりも短期間の方が認められやすい)、場所的範囲(日本全国どこでもというよりも例えば会社がある県とか地方に限定する方が認められやすい)、制限の対象となる職種の範囲(制限される職種の範囲が狭い方が認められやすい)、代償の有無(退職金や在職中に競業しないことで社員が何らかの金銭的手当を受けている方が認められやすい)、会社の利益(会社にとって重要な営業秘密などがある場合の方が認められやすい)、社員が被る不利益(再就職するのに苦労が少ない方が認められやすい)等を検討して合理的範囲内であれば競業避止義務の定めは有効とされているケースが多いです。

[競業避止義務に関する判例1]
三佳テック事件(最判平成22年3月25日)
 退職後の競業避止義務の定めがない場合で、社員が、退職前の会社の事業と同種の事業を営み、退職前の会社の取引先から継続的に仕事を受注するなどの競業行為を行ったが、不法行為にあたらないとした事案。
 営業秘密を侵害したり、信用を毀損しておらず、不当な方法で営業活動をおこなったものではないこと等を理由に、社会通念上自由競争の範囲を逸脱する者ではないとした。

[競業避止義務に関する判例2]
三晃社事件(最判昭和52年8月9日)
 退職時に、同業他社に転職する場合は会社の承諾を得るとともに、退職金を半額にする旨の退職金規程がある会社に勤めていた社員が、退職後に同業他社に就業したため、会社が退職金規定の定めに基づいて社員に対して、支給済の退職金の半額の返還を認めた事案。
 同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業選択を不当に拘束するものとは認められないとして、退職金が功労報償的な性格を有することからすると、同業他社に就職した退職社員の退職金について自己都合の半額と定めることは合理性のない措置であるとすることはできないとした。退職金の代償措置としての役目について述べた判例と言える。

[競業避止義務に関する判例3]
フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地判昭和45年10月23日)
 技術的秘密を知る社員と退職後の競業行為を禁止する特約を締結していたが、社員が退職後に競業関係にある他社の取締役に就任し、競業行為を行ったため、裁判所が競業行為の差し止めを認めた事案。
 技術的秘密が保護に値し、制限期間が2年間という比較的短期であり、競業範囲は特殊な分野であり制限の対象が比較的狭いこと、在職中機密保持手当が支給されていたこと等を総合的に判断して、競業の制限は合理的な範囲を超えているとはいえないとした。

■ご相談窓口のご案内

〒810-0023
福岡県福岡市中央区警固2-18-17
SHOWAけやき通りビル7階