労働契約の成立

1 採用の自由

 労働関係については、労働基準監督署をはじめとして行政関係が強く指導していますし、裁判例としても例えば合理的な理由がない解雇を認めないなど、会社が人を雇うには全て決まったルールに従わなければいけないと思っているかもしれません。
 しかし、人を雇うことも当事者である会社と社員との間の約束、つまり契約(法律的には雇用契約といいます)によって決められることになります。この雇用契約については、労働基準法をはじめとする労働関係法規によってルールが決められている面があり、そのルールに反する約束は無効とされたりしますが、あくまで契約であり、その契約内容については、労働関係法規が決めているルール以外の部分では自由に定めることができます。
 特に、その人を雇うかどうか、という採用の場面においては、会社には、契約締結の自由が広く認められており、自己の営業のためにどのような人をどのような条件で雇うかについては、男女雇用機会均等法などの特別な定めがない限り、原則として自由に行うことができるとされています。
 ですので、例えば何回面接に来たら雇いなさいとか、そういうことが決められているのではなく、会社の基準で誰を雇うのかを決めていいということになります。そして、誰を雇うかということが実はいろんな労働問題の出発点になりますので、人を雇う場合にはここでどのような選考をするのかが極めて重要です。
 究極の労働トラブル回避法は、最良の採用であるということ会社側は肝に銘じておく必要があります。

2 内定

 会社には採用の自由がありますが、ある一定限度以上に会社と採用予定の人との間に関係が作られると、会社は自由に採用を取り消すことができないとするのが判例です。
 ある一定限度以上の関係とは、いわゆる内定のことです。
 従来の日本でよく行われていた終身雇用システムでは、毎年定期的に新卒の学生を採用しますが、学生が卒業するのは時期が決まっていることが多いので、会社としては優秀な人材を確保するために、実際入社する卒業より以前に、内定を通知して採用をすることになるのです。
 内定については、会社が来年の卒業時期(現在は4月が多いでしょう)以降に採用する人材を募集して、この会社に入りたいと思う人が申し込みを行うことが労働契約の申し込みで、これに対して企業からの内定は、実際入社するまでの間に内定通知等で定めた内定取消事由や学校を卒業できなかった場合には労働契約を解約することができるという内容を含んだ労働契約、つまり解約権を留保した労働契約が成立するとするのが、日本の裁判所の一般的な考え方です。
 この時点ではもう会社が誰を雇おうかな~、という状態から一歩進んで労働契約が成立していますので、内定を取り消しについては、採用の自由として完全に自由なものではなくて、内定を取り消すことが、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られるとしています。2014年にあるテレビ局の女子アナウンサー採用予定者が内定取り消しを受けたことで裁判になりましたが、今まで述べてきたことを理解できれば、どうして最終的にはテレビ局が採用することになったかが何となく分かるのではないでしょうか。なお、新卒者だけでなく、中途採用の場合の内定にも同様の考え方をするものもあります。
 もっとも、イメージとしては、後に述べる解雇の場面と考え方は似ています。ただ、内定の場合には、実際に働き出した社員を解雇する場合に比べると、まだ働いていませんから、解雇の場合に比べると相当性が認められる範囲は広いと言えます。

[内定に関する判例1]
大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)
 卒業予定者が会社から内定通知を受け、誓約書を会社に提出したが、その後企業が突然内定取消を行ったが、内定取消を無効とした事例。内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することはできないとした。

[内定に関する判例2]
電電公社近畿電話局事件(最判昭和55年5月30日)
 採用内定後に、内定者が逮捕され、起訴猶予処分を受ける違法行為を行っていたことが判明したことから、会社が内定を取り消したことについて、内定取り消しを認めた事例。採用をできないという事情が社会的に相当であれば、明文をもって取り消し自由が記載されていなくても内定取り消しができる場合がある。

[内定に関する判例3]
インフォミックス事件(東京地決平成9年10月31日)
 ヘッドハンティングによって内定していた者に対し、会社が業績悪化を理由として内定を取り消したことについて、内定取消しを無効とした事案。ヘッドハンティングで採用を予定していたこと、内定者の期待、既に前の会社を辞職した後に辞退を求めたこと等から、解約権留保の趣旨、目的に照らしても、内定取消しは客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当として是認することはできないとした。

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