労働契約の内容、変更

1 労働条件の内容、変更

 労働条件は、組合との労働協約や、就業規則で規定され、労働協約や就業規則の基準に満たない労働条件部分は無効とされ、労働協約や就業規則の基準で労働契約が結ばれていることになります。
 日本では、社員個々人と個別的に詳細な労働条件を定めるよりも、就業規則で詳細な労働条件を定め、多数の労働者の条件を統一的に設定することが広く行われています。
 契約内容を合意によって変更することも可能ですが、判例では、個別の社員との合意については認定は厳格になされる傾向にあります。
 また、個別の社員1人1人と合意することなく、就業規則を変更することによって、例えば給料を切り下げるなど社員に不利益に条件を変更することは原則としてできないが、変更後の就業規則を社員に周知させ、かつ、就業規則の変更が、社員の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、他の社員が同意しているか、労働組合と交渉状況、その他の事情を総合的に考慮して合理的なものである場合には、変更後の就業規則により、労働条件が変更されるとするのが判例の考え方です。

[労働条件の内容、変更に関する判例1]
大曲市農業共同組合事件(最判昭和63年2月16日)
 農業組合の合併に伴い、退職金給与規定が片方の旧組合の退職金支給倍率より低くなったことについて、就業規則の不利益変更の合理性を認めた事案。退職金は低減されているが給与は相当程度増額されていること、合併により単一の就業規則を作成する必要性が高いこと等から合理性を認めている。
 なお、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更においては、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、効力を有する、としているところは一般論として踏まえておくべき。

[労働条件の内容、変更に関する判例2]
第四銀行事件(最判平成9年2月28日)
 定年が55歳で勤務に耐えうる健康状態の社員は58歳まで在職することができたところ、就業規則を変更し、定年を55歳から60歳に延長するとともに、55歳以降の賃金を引き下げたため、55歳以降の賃金が54歳時の3分の2程度に低下し、58歳まで勤務して得ることを期待することができた賃金額を60歳定年近くまで勤務しなければ得られなくなったことについて、裁判所は就業規則の不利益変更を認めた事案。
 60歳定年制が国家的政策であり、定年延長に伴う賃金水準の見直しの必要性が高いという状況にあり、変更後の労働条件は、他社や社会一般の水準と比較してかなり高いこと、行員のほとんどで組織されている労働組合からの提案で交渉合意を経て労働協約を締結したうえで行われたもので、不利益緩和のための経過措置がなくても、不利益が合理的な内容のものであるとした。

[労働条件の内容、変更に関する判例3]
みちのく銀行事件(最判平成12年9月7日)
 60歳定年制をとっていた銀行で、就業規則を変更し、55歳以上の行員について、業績給を一律減額したが、それにともない賞与の支給額も減額されたが、裁判所が就業規則の不利益変更の合理性を認めなかった事案。
 経営上の必要性は認められるが総賃金コストの大幅な削減を図ったものではなく、中堅層の労働条件を改善する代わりに55歳以降の賃金水準を引き下げたもので、高年層の行員に対して専ら不利益を与えるものであり、労働組合の合意があるなどの事情があっても合理性は認められないとした。

2 配転

 配点とは、同一会社内での職務内容や勤務場所の長期間にわたる変更のことで、一般に所属部署の変更が配置転換、勤務地の変更が転勤などといいます。
 裁判例では、就業規則に業務上の都合により社員に転勤や配置転換を命じることができるとの定めがあって、勤務地や職種を限定する合意がない場合には、会社は社員の同意がなくても転勤や配置転換の配転命令をすることができるとしています。
 但し、業務上の必要性がない場合や、業務上の必要性があっても他の不当な動機・目的でなされたものであるとき、社員に対して通常甘受すべき限度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情がある場合には権利の濫用にあたるとして、当然濫用にあたる配転命令は許されないことになります。もっとも、判例の考え方は特段の事情がない限りは濫用ではないという考え方です。
 退職させることを目的とした配転命令が違法とされた判例もあります。

[配転に関する判例1]
東亜ペイント事件(最判昭和61年7月14日)
 社員が家庭の事情で、神戸営業所から名古屋営業所への転勤命令を拒否したため懲戒解雇したことについて、裁判所は転勤命令を友好とし、懲戒解雇を有効と認めた事案。会社は業務上の必要に応じ、その裁量により社員の勤務場所を決定することができるとして、業務上の必要性が存しない場合、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情がある場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないとし、業務上の必要性については、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など、企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは業務上の必要性の存在を肯定すべきとしている

[配転に関する判例2]
ネスレ日本事件(大阪高判平成18年4月14日)
 家族に介護や介助を必要とする高齢者や精神疾患を抱えた者がいることを理由に遠隔地への配転命令を拒否した社員につき、裁判所が当該配転命令を権利の濫用であるとして向こうとした事案。
 配転命令により単身赴任した場合には、家族の精神疾患に与える影響が大きく、また、介護を要する親の見守りや介助などを社員抜きに他の家族が一日中行うことは不可能であることなど、配転命令が社員に与える不利益は相当程度大きく、通常甘受すべき程度を著しく超えるとした。

[配転に関する判例3]
フジシール事件(大阪地判平成12年8月28日)
 退職勧奨を拒否した管理職として技術開発に携わる社員に対して、従前は嘱託社員が行っていたゴミ回収事業という単純作業の肉体労働への配転命令を行ったことについて、裁判所は当該配転命令を権利の濫用として無効とした事案。
 退職勧奨拒否に対する嫌がらせ(不当な動機・目的でなされたものということであろう)として権利の濫用としている。

3 出向・転籍

 出向とは、社員が会社に在籍したまま他の会社の労働者となって、相当期間にわたって他の企業の業務に従事することをいいます。
 出向命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は無効とする(労働契約法14条)とされています。
 転籍とは、社員が会社から他の会社に籍を移して他の企業の業務に従事することをいいます。
 転籍について、判例は、会社の包括的人事権に基づき一方的に行うことはできず、社員の同意が必要としていると考えられます。

[出向・転籍に関する判例1]
新日本製鐵事件(最判平成15年4月18日)
 会社が社員に対し、協力会社への業務委託に伴い協力会社への出向を命じたが、一部の社員が出向命令に同意しなかったことについて裁判所は出向命令を有効とした事案。
 就業規則や労働協約に社外勤務条項があり、出向中の社員の地位、処遇等利益に配慮した規定がある規定が定められている等の事情がある場合、社員の個別的同意なしに出向命令を発令することができると一般論を述べ、出向を行う必要性があったこと、人選基準に合理性があったこと、業務内容や勤務場所等は何らの変更はなく社員の地位、処遇に関する規定等からしても、社員が生活関係や労働条件について著しい不利益を受けるものとはいえないとして、権利の濫用にはあたらないとした。

[出向・転籍に関する判例2]
三和機材事件(東京地決平成4年1月31日)
 転籍命令を拒否した社員を懲戒解雇したことについて、懲戒解雇を無効とした事例。
 会社の包括的人事兼に基づき一方的に転籍を命じることはできない。常に社員から具体的な同意がなければいけないかはともかくとして、少なくとも包括的同意もないと見られる場合には、転籍命令は無効だとした。

[出向・転籍に関する判例3]
日立精機事件(千葉地判昭和56年5月25日)
系列会社への転籍命令を拒否した社員に対する転籍命令を有効とした事案。
系列会社が密接な関係にあっても、法人格が異なるから、転籍には労働者の同意が必要であるが、入社面接の際に系列会社での勤務があることを説明し、社員も身上調書でそれを可としていたこと、労働条件に職種や勤務地に限定がないこと、系列会社への転籍は人事体制に組み込まれて長年継続されてきたこと等から系列会社への転籍についてあらかじめ包括的な同意を与えていたとしている。

4、懲戒(※懲戒解雇については契約の終了の項で述べます)
 会社は、企業秩序を維持し企業の円滑な運営を図るために、社員に企業秩序違反行為を理由として、一種の制裁罰としての懲戒処分を行うことができます。出勤停止、減給、戒告、譴責等として規定されていることが多いです。
 ただ、会社が秩序維持のためといえば何でも処分できるのではなく、懲戒処分を行うには、あらかじめ就業規則で懲戒の種別と事由を定めておくことが必要ですし、懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
 ですので、懲戒処分を行う際には、どんな理由で、どんな処分を行うのか、を明確にして、その処分はバランスがとれているのか、ということとちゃんと証拠によって確定できるのか、ということをよく考えて行う必要があります。

[懲戒に関する判例]
関西電力事件(最判昭和58年9月8日)
 社員が社宅で会社を批判するビラを配布したことについて会社が譴責処分としたことを裁判所が有効とした事案。
 ビラの大部分が事実に基づかなかったり、事実を誇張歪曲して会社を非難攻撃、誹謗中傷するものであり、ビラの配布によって会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱した(あるいは乱すおそれがある)として、就業時間外に職場外で行われたものであっても懲戒事由にあたるとしました。

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